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私には、非常に子供の(たぶん小学生だった)頃に、イノベーションには失業が生じるという欠点がある、と聞かされて、そんな事は無いはずだ、と言い返した事が有る。 直感的にハッキリと、そう分かったからだ。 その際に「理由は、直ぐには説明できないが、学校等で勉強しながら成長した後で、私が説明するつもりだ」という風に予告しておいた。 イノベーションに伴い失業が発生する事は、少なくとも原理レベルでは、必然ではない。 その事を、以下に示す。 A=作業員が機械提供者以外から購入する益 B=機械提供者が購入する益 C=作業員の作業に伴う負担を肩代わりする、という負担減免益 C'=機械提供者が販売する、機械提供以外の益 D=作業員が作業を通して工場に販売する益 D'=作業員が工場以外に販売する益 E=工場が作業員以外から購入する益 F=工場が販売する製品の益
Aは、衣食住や娯楽に属する益です。 Bも、衣食住や娯楽に属する益です。 機械提供者としては、原料採掘業者から、材料精製業者、部品製造業者、組み立て業者、設計開発業者まで、全てを含めて考えます。 Bとして組み立て業者だけを考えるのではないから、部品として提供される益等は、Bに含まれません。 負担減免益の価値は、減免された負担を伴って生産されていた益の価値として定義されるので、C = D です。 負担の単位は一生と同じ次元の量であり、益の価値とは次元が異なるので、負担減免益の価値を減免された負担の量だとする事、は出来ません。 C'は、機械提供開始前に収入を得るために提供していた益です。 機械購入後の作業員は、自分では作業せず、自分がしていた作業の全部を機械にやらせます。 D'は、機械使用開始後に収入を得るために作業員だった人が提供する益です。 Eは、材料や部品です。 作業員は、Cの購入によって所持金が減少し、その分だけ残存義務が増加する。 その残存義務の増分を、D'の販売という形で消化する事が出来る。 Aを減少させる、という対処の仕方も出来る。 D - A > C ならば、Dの報酬からAの支払いを差し引いた残りで、Cの購入費用を支払える。 もともと賃金の全てを支出するライフスタイルだった人は、Cの購入費用全額をD'販売で稼ぐ必要がある。 機械提供者がCの販売を職業に出来るか否かは、作業員がCを購入するか否かに、掛かっている。 作業員がCを購入しなければ、C'を売って生計を立てる必要が有る。 工場にとってイノベーションは、直ぐには、何らの環境変化も、もたらさない。 ここまでが問題設定です。 ここからは、解決不可能な失業問題が存在しない事、を証明します。 社会全体の職業を負担指数の大きい方から小さい方へ順に並べると、 Dの負担指数 > D'1の負担指数 > D'2の負担指数 > ・・・ > D'nの負担指数 > C'の負担指数 > Cの負担指数 という風に成っている事を前提として、 D販売業の人は、仕事を機械に譲って、自分はD'1販売業に転職する。 D'1販売業の人はD'2販売業に転職する。 ・・・ D'n-1販売業の人はD'n販売業に転職する。 D'n販売業の人はC'販売業に転職する。 C'販売業の人はC販売業に転職する。 という風に大域的なシフトを実現させれば、イノベーションに伴う失業は全く生じない。 C > C' である事は可能だから、その場合には、C'販売業に生じる人手不足は、益量でカウントすると、D販売業から生じる失業量より小さく、失業者を吸収し切れない。 しかし、この場合にも、機械提供者が C - C' 分の売上金を貯金せず、何かの購買に充てるならば、それは需要の新規発生であり、これが失業者の受け皿と成る。 C = C' の場合と比べて、C > C' の場合には、職位空間中のどの経路上に空きが出来る(どの経路上を空孔が移動する)か、予測するのが難しい。 しかし、機械提供者の購買動向を調査し、そのデータに基づいてシミュレートすれば、思ったより分かるかもしれない。 イノベーションによって新産業が生じ、そこに失業者が転職すれば、失業問題は解決される、という考えも間違いだった。 色々な機会に私は、そうではないか、という予想を述べて来たが、間違いだった。 新産業はC販売業だけであり、D販売業からの失業者の転職先はC販売業ではない。 やはり、イノベーションの直接の恩恵は人に掛かる負担が減る事だ、という理解で良い様だ。 つまり、イノベーションから我々が受けるのは、商品の価格が下がる、等の益レベルの恩恵である、という俗説(子供の頃の私が苦し紛れにうっかり言ってしまった)は誤りである。 倫理的に言って、何かを工夫して生産義務に違反する事なく自分の負担を減少させれば、そうやって浮いた体力や時間が工夫した人本人の物である事は、自明である。 これは、取引によって他者からせしめた物ではなく、自分が自分の為に作り出した物だからだ。 したがって、工夫の恩恵は、まず、そういう負担の減少という形で私有されるのが正しい。 負担が減少した分だけ余計に生産して、イノベーション前と同じ量まで自分の負担を増やすか否かは、工夫した人本人の自由意志に委ねられるべき事である。 それなのに、イノベーションに伴って商品価格を下げる、という方式だと、個人のそういう権利が蹂躙されてしまう。 そして、この種の権利侵害は、経済全体に蔓延している。 この点は、是正されねばならない。 偉そうに聞こえるかもしれないが、私はこの種の権利侵害の被害者本人だから、偉そうでも何でもない。 この種の権利侵害は、第3種のペテンに由来する権利侵害の代表例だ。 C販売業という物はイノベーション前には無かった物だから、全体として、 (D生産の負担) - (C生産の負担) だけ負担が減り、負担に関しては、誰も損をする人が居ないので移行は不公平ではない。 もう少し厳密に言うと、転職において、退職して行った人よりも転職で入って来た人の方が適性が微妙に低い、という問題が上記の描像には潜伏しており、その分だけ、全体としての負担の減少は(D生産の負担) - (C生産の負担)よりも小さく成る。 負担減免益の価値は減免された負担と同量の負担を伴う生産の産物の価値に等しい、という認識を踏まえると、機械を作業員に売るか工場に売るかで本質的な違いは生じない。 だから、C販売員は旧作業員よりD販売に向いたD販売員だ、という考え方も出来る。 こう考えると、イノベーション適応の本質を、機械提供者の適性が変化して機械提供者と旧作業員のD販売に対する適性の大小関係が逆転しそれによって分担の再最適化が起こる事だ、とする見方も可能だ。 イノベーション前は旧作業員の方が機械提供者よりもD販売に向いていたが、イノベーション後は機械提供者の方がD販売に向いている、という風に見るわけだ。 機械提供者の元の仕事C'販売業については、D'n販売業だった人との間の適性の逆転は生じないが、機械提供者が転職して空席に成るので、そこにD'n販売業だった人が入って来る。 D'n-1販売業だった人よりはD'n販売業だった人の方がC'販売に向いている、という事も示せそうな気がする。 ここまでの話をまとめると、自転車レースの隊列のローテーションになぞらえて、イノベーション適応の様子を説明できる。 自転車レースでは、空気抵抗に対する対策として、数人が縦に並んで走行する。 別々に走行すると空気抵抗は人数分に成るが、縦に並んで走行すると空気抵抗はほぼ先頭の1人分だけに成る。 先頭の1人がD販売員で、最後尾の人が機械提供者だ。 自転車レースでは、全員の体力を有効に投入するために、ある程度走る毎に先頭の人が後退して最後尾に着く、という事を繰り返す。 これと少し違うが、イノベーション適応では、最後尾の機械提供者が先頭に機械を送り出し、全員が後ろに1人分づつ繰り下がる。 これを業種数分の回数繰り返せば、人間がやっていた仕事は全て機械に置き換わり、人間は、その後ろで新しく生じたもっと負担の軽い仕事を行なう、というモードに移行するだろう。 自転車レースでも、勝負所が来るまでは、他チームの選手に勝つ切り札に成る様な特別な走行能力を持った選手は最後尾から移動せず体力を温存し、ローテーションはその選手の前でだけ行なわれる、という戦法が有る。 機械提供者というのは、発明家であって、そういう有力選手に相当する。 創造的な才能が抜群の人には、生活に要する負担を極力軽くして余裕を持たせ、イノベーションというアテ価値生産を期待する、という戦略は、不公平という批判をチマチマしたセコい小言だと感じさせるに足る、大きな妥当性を持つ。 創造的な才能が抜群の人を優遇する、という不公平は、それを無くせば他の不公平を改善する道が断たれ、それを認めれば将来は不公平が全体的に大きく減る、という類の物だ。 つまり、不公平を無くすための不公平なのである。 「さあ、どっちにしますか?」と訊かれれば、私なら迷わず「認める」と答える。 毎日8時間働いていれば永久に毎日8時間働き続けなければいけないが、今日1日だけ9時間働けば明日からはずっと毎日7時間しか働かなくてよく成る、という状況に例える事も出来よう。
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最終更新2016年02月03日 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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