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「人はひとりでは生きて行けない」というフレーズをマスコミから聞く事が多い。
テレビ・コマーシャルや歌の歌詞、アナウンサーや論客が言った事も有るかもしれない。
最近わたしは1970年代にテレビで放送された「俺たちの旅」というドラマのDVDを視聴している。
作中で主演の中村雅稔さんが「ひとはみなひとりでは生きて行けないものだから」と歌うシーンが繰り返し出て来る。
私も良く知っている歌なのでずっと何とも思わなかったが、つい先日鼻歌でこの部分を口ずさんでいる時に、おっとこんな所にも「人はひとりでは生きて行けない」というフレーズが入っていたなんて、と気付き愕然として無性に腹が立った。

人がひとりで生きて行けるのか行けないのかは、ひとりで生きて行くとはどういう事を言っているのかによって変わって来る。
まあ、常識的な意味でなら、人はひとりでは生きて行けない、と私も思う。
ひとりで生きて行く、というのが、世界に自分以外の人が全く居ないのに何十年間も死なないで居る、という意味なら、確かに、それは難しいだろう。
絶対に無理とは言えないが、不可能に近い。
そして、それも常識的な意味のひとつだ、と思う。
ひとりで生きて行く、というのが、自分以外にも膨大な数の人が居る現代社会の中で自分以外の人から情報や物を全く受け取らずに何十年間も死なないで居る、という意味でも、確かに、それは難しい。

つまり、「人はひとりでは生きて行けない」というのは、正しいか間違いかと言えば、正しい。
では、「人はひとりでは生きて行けない」と発言する行為は、正しい事を言ってるから、どんな場合でも正当なのだろうか。
違うはずだ。
その発言が「嫌み」とか「当て付け」ならば、不当な場合も有るからだ。
具体的に言うと、現代社会で断る権利が有るとされている種類の誘いを断った事に対して、誘った人が嫌みとして「人はひとりでは生きて行けない」と言うのは、その権利の否定であり不当である。

人はひとりでは生きて行けない。
だから何だと言いたいのか?
その部分を伏せて、人はひとりでは生きて行けない、とだけ言う、そういう発言は私の逆鱗に触れる。
「お前、一体何が言いたいんだ」という台詞を最近めっきり聞かなく成ったのは不審だ。

「お前は人間以下の動物だ」という言葉で罵りたいが、内容が間違ってるし、内容が間違ってなくてもそういう風に罵るのは非行だからという理由で、「お前は人間以下の動物だ」と言う代わりに「猿は人間以下の動物です」「猿は人間以下の動物です」「猿は人間以下の動物です」 ・・・ という風にしつこく繰り返し発言する、というタイプの攻撃方法が有ります。
「猿は人間以下の動物です」なら内容が正しいし「お前は猿だ」と言ってるわけではないけれど、言われた人はその発言の害を被る。
そう成る様に狙って「猿は人間以下の動物です」と発言するのを、どこも間違ってないとするのは、ハッキリ間違っているはずだ。
「人はひとりでは生きて行けない」という言葉を執拗に発する行為は、これなんですよ。
関西弁の「しばく」という言葉も、元はそれだったのではないか。
「しばる」と言ったわけではないと。

また、一方では、自律とか自立という言葉が有りますよね。
これは、生きて行けないほどまでに他者との関係を断つのでなくても、「ひとりで」という言葉で表すのが適当な状況というものがある証拠です。
「お前は自立してないけど、オレは自立してるもんね」と言う人が「人はひとりでは生きて行けない」と言うのは、ほとんど矛盾です。
経済活動の様相を表す言葉として「独立」という言葉も有りますよね。
「独立開業」などが、それです。

この「独立」という言葉を見れば特に分かり易い様に、要するに、自立、自立、独立、というのは名誉な事であって、依存や従属は恥ずかしい事だ、という価値観において、犯人側と被害者側は一致している、という前提がまずあって、犯人側は被害者側が名誉な状態に成るのを嫌だと思い(生意気だという言葉で表現される事が有る感情)、そう成らない様にする目的で、「人はひとりでは生きて行けない」という言葉を使ってごまかし、自立や独立を否定しに掛かって来る、これが真相です。
しかし、本心においては犯人側も自立や独立を是とする価値観を持っているのだから、その態度は詐術である、という事に成ります。
大変な害悪であるわけです。

人はひとりでは生きて行けない。
だから何だと敵が言いたいかにかかわらず、言える事は有ります。
元が正しいんだから、それから言える事も正しい。
人はひとりでは生きて行けない。
だから、生きて行くのに必要最小限度は助け合うのが義務である。
だから、「人はひとりでは生きて行けない」と言われても何も心配する事は無い。
これが本来の理屈である。
なのに、誘いを断られたから誘いを断った人に「人はひとりでは生きて行けない」と言って考え直させようとする者は、誘いを断ったら生きて行くのに必要最小限度の助け合いをお前には与えないぞ、といって脅している事に成ると思う。
これは極悪非道である。






最終更新2024年04月26日