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僕は、物理教育会場での27aZA-2と素粒子論会場での27pXA-6と計2つ発表したのだが、先に、他人の発表について、思ったことを書く。

厚さゼロの面電荷の作る電場のその面上での値や、厚さゼロの面電流の作る磁場のその面上での値についての発表(27aZA-5)に対して、僕は「完全納得」とコメントしたが、他の参加者からマクスウェル方程式の特徴に依拠した異議が聞こえた。
僕はそれを聞いて、漠然と電荷分布がデルタ関数状に成ってるところを思い浮かべただけで、それは問題じゃあないでしょう、と思ったが、後で良く考えてみると、その異議の人は、異議の理由として、デルタ関数が関数ではなく超関数である事にも言及していたが、それだけではなく、マクスウェル方程式が電場や磁場の空間微分を含んでいる事も挙げていた。
この事に気付いて、それにも一理あるな、と思うようになった。
が、それは、セッションが終わった後だった。
確かに、マクスウェル方程式が電場や磁場の空間微分を含んでいるという事は、マクスウェル方程式の解となる電場や磁場が至るところ空間微分可能なものでなくてはいけい、という事を意味する。
発表者の提示した電場や磁場はそういうものではなかった。
僕思うに、多分これは、そういう厳密主義的な考え方からすると許されない考え方のうちで、デルタ関数を-∞からxまで積分したものつまりθ(x)の、ゼロ点での値つまりθ(0)を、1/2と見積もる、という考え方を採用すれば、不連続な電磁場の取り扱いにおいても、マクスウェル方程式は辛うじて脈絡を保つ事が出来る、と考えるべきだ。
場の量子論などのアドヴァンストな研究においては、この、デルタ関数を半分に切る、みたいな、苦肉の策はしばしば現れる。
たしか、それがクリティカルに成るのは、シュヴィンガー項においてだったと思う。
僕などはデルタ関数のゼロ点での値δ(0)というものを普通の数の如く扱う。
これは厳密主義的には許されない事で、僕の得意技とも言える。
他の人がこれをやるのは見ない、全くかも。
これを使うと、たとえば質量mの質点の密度はm[δ(0)]^3と表される。
我々が、このような厳密主義的でない方法を駆使するときは、それは演繹ではなく発見法である、という風に見做されなくてはいけない。
発見法によって探り当てられた結論というものは、何らかの厳密主義的正当化法によって担保されねばならないが、そういった正当化法の存在を楽観視し、一々詮索しない場合が多い。
しかしながら、この選択θ(0)=1/2の場合には、厳密主義的正当化法に立ち入ることなくしては、いまいち自信が持てない、というのが僕も正直な感想で、発見法のみに依拠して自信を持って言えるのは、せいぜいθ(0)が0と1の間にある事ぐらいまでで、θ(0)=1/2とまで言い切るのは、ご都合主義的ないしは恣意的ではないか、との批判を免れないだろう。
発表者の指摘は正にこの批判に対応する。
発表者は「場当たり的」という語を使ったが、僕は「ご都合主義的」や「恣意的」という語の方が適していると思う。
したがって、この発表については、異議を述べた人の意見と発表者の意見とを考え合わせると、マクスウェル方程式からすると決定不能な値が何故クーロンの法則からなら決定可能なのか、という点にまとまろう。
何故これが問題たり得るかと言うと、異議を述べた人が強く意識していたであろう様に、電磁気学の原理はマクスウェル方程式であり、クーロンの法則とてマクスウェル方程式の帰結の一つに過ぎないからだ。
つまり、同じマクスウェル方程式から出発しても、やり方次第で答えが不定に成ったり確定に成ったりする、のは何故か、という問題だ。
しかし、このように立問すると、これは物理の問題と言うよりは、むしろ数学の問題だ。
と言うのは、物理的興味としては、この問題は本質的には繰り込み理論においてクローズアップされる自己力の問題の一種であり、つまり、荷電物質が自分自身の作る電磁場から如何なる力を受けるか、という問題であり、電場の値そのものはあまり興味の対象とはならず、電場の値は電荷に及ぼす力を通してのみ興味の対象となるからだ。
したがって物理的興味の観点からは、電荷分布のR依存性を残したまま、球殻の厚みを⊿Rとでもしておいて、球殻上の単位面積あたりが電場から受ける力、を計算し、⊿R→0の極限でのその力の値が、電荷分布のR依存性に無関係に一つの値に決まる、という事を示すのが良いと思う。
これが、僕の考えるこの件に対する厳密主義的正当化法だ。
これに相当する計算は発表者が電磁流体力学的な方法で示していた。
それから、もっと後になってから気付いた事だが、異議の人の論法に従うと、電荷分布の厚みがゼロでなく有限の場合についてまで批判しなくてはいけなくなる。
なぜなら、その場合にも、電場は至るところ空間微分可能、ではないからだ。
明らかにこれは過ぎたる厳密主義なので、その分、異議の人の異議の妥当性は減少する。

小学生の電気概念についての発表(27aZA-7)は面白かった。
衝突説という間違った考え方をしている子が多い、との報告を含む発表だったが、実に小学校低学年の頃の僕はこの衝突説だった。
それを言った時の先生の顔色から、自分が間違っているらしい事を、僕は子供ながらにも十分に感じ取ったものだった。
モーターを逆接続した場合の実験結果を衝突説に対するアンチテーゼとして取り上げる授業の局面を僕は会場で高く評価したが、後で考えてみると、子供の頃の僕は、電池の負極からはマイナスの電気が、電池の正極からはプラスの電気が出て行って、それが豆電球のところで衝突する、と考えていた気がする。
正極から出て行く電気と負極から出て行く電気が異なるならば、モーター逆接続の件は衝突説の反証にはならない。
が、色々な実験結果を根拠にして児童が「実験結果より・・・でなければならない」とか「実験結果より・・・ではありえない」という風な考え方を出来るようになる事はとても良い事だ。

小さな温度差で動く熱機関の発表もあった。
これは斎藤さんらによるものだった。
もし、昼夜の気温差で動く熱機関なんてものが実用化されれば面白いかも、僕は期待しないが。

中心力問題に対する量子力学の波動方程式の角変数部分についての発表(27aZA-3)は、帰宅してから、自分の部屋で量子力学の本を見て、この部分の事を言ってたのか、と分かった。
発表者の言う通りなのか否かは、機会があったら自分で確認してみたい。

電波の測定の発表(27aZA-10)については、僕のコメントは完全な表現ではなかったかもしれないので、ここに改めて書き直すと、「生徒が、電波特有の概念的難しさによって、音波なら分かるが電波は分からない、という状況だったならば、その方法では生徒に電波を分からせる事は出来ないのではないか。
なぜなら、その方法では、電波ならではの、つまり、電波にはあるが音波にはないような電波の特徴、というものには、焦点が当てられていないから」。

さて、ここより僕の発表について書く。
物理教育会場での発表(27aZA-2)では、講演概要(下記)に書かれていることをしゃべっただけ。
それ以外はと言うと、強いて言えば、film-3(下記)に書かれている式の成立根拠を補足した事が挙げられるぐらいだろう。
-V0の項が等号の成立を妨げている事を指摘し、そのような項が現れる式の成立理由を、film-4(下記)で説明した。
見ての通りだ。
今回のこの発表については僕はあまり気が進まない面もあった。
と言うのは、僕が指摘しているような間違った教え方というものは、僕が見かけた教授がたまたましていただけで、一般にはそんな間違いはほとんど誰もしないのかもしれない、と考えたからだ。
発表前には僕はそのように思ったのだが、発表してみると、film-3(下記)で成立しない事が指摘されている式を指して「成り立つような気がする。
ニュートンはそう言ってるんだから。
運動量の変化率が力に等しいという風に」とコメントする人が出て来た。
これを聞いて僕は、発表した甲斐があった、と思った。
この「ニュートンは、運動量の変化率が力に等しい、と書いているのであって、質量×加速度が力に等しい、とは書いてないから」という理由付けは、正に僕の見かけた間違った教え方をしていた教授の言い分そのものであった。
僕の勘の通り、やはりここはツボなのだ。
物理教育会場では、生徒の実態についての詳細な統計データに基く実証的な発表をする人も多く、それも素晴らしい事だと思うが、僕は、自分個人の狭い経験と、その狭さを補って余りある鋭い勘によって、発表内容を決めている。

講演概要

27aZA-2
日本物理学会講演概要集
第61巻
第1号
第2分冊
394ページ。
OHP 

OHP-13-1
(film-1)


OHP-13-2
(film-2)


OHP-13-3
(film-3)


OHP-13-4
(film-4)


OHP-13-5
(film-5)



素粒子論会場での発表(27pXA-6)の講演概要と使ったOHPフィルムも、下に掲載してある。
この発表においては、僕の「分析可能」という用語法は不適切ではないか、との指摘を受け、僕はそれに納得した。
「普通はエンタングルという言葉を使いませんか」と言われた。
このことは、僕の言う「量子歴史の分析不可能性」というアイデアが既出である事を意味するものではない。

講演概要

27pXA-6
日本物理学会講演概要集
第61巻
第1号
第1分冊
4ページ。

English
OHP 

OHP-sr-1
(film-6)


OHP-sr-2
(film-7)


OHP-sr-3
(film-8)


OHP-sr-4
(film-9)


OHP-sr-5
(film-10)


最終編集2014年09月27日